マーラー:交響曲第1番
ダニエル・ハーディング指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
[2009年録音]
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によるBDの交響曲全集に収められている1枚。
収録された音がとても良い。サラウンドで聴くと、ホールの空気までも感じることができる。倍音たっぷりの柔らかく質感の高い音響に包まれるのは快感だ。
演奏は明晰そのもので、特に苦労しなくとも様々なフレーズがはっきり聴き取れる。
極めて高水準の演奏であることは間違いないのだが、なぜかあまり感動しない。木管群と金管群の反応が俊敏で、指揮者の要請に的確に応えているように感じるのに対し、弦楽の反応が微妙に悪く、ちょっとアンサンブルが乱れたり、デュナーミクの振幅が狭くスフォルツァンドが充分に効かなかったり、ポルタメントをかけているのにそれが機械的で表情が濃くならなかったり、第2楽章で一拍目にちょっとした間を空けて舞曲らしさを出そうとしている割にはそれも機械的な感じだったり……。というわけで、あまり感動できないのは、もっぱら弦楽セクションのせいではないかと思っている。要するに、のびのびと歌っていないんですね。
もう一つ、テンポの問題も挙げられるかもしれない。急激なギア・チェンジを頻繁に行うのがマーラーの特徴であり、ハーディングはもちろん巧みにギアを細かくチェンジしているのだが、特定のギアに入れている間はインテンポに近く、旋律等に対応してテンポを大きく揺らしたりはしないので、これまた機械的・デジタルな印象を受けてしまうのだ。弦楽がのびのびと歌えないのはそのせいかもしれない。まるでストラヴィンスキーの春の祭典を聴いているようだ……と書くと共感していただけるだろうか。
とはいえ、前述のように木管群と金管群は冴えわたっているので、ぜひ堪能してほしい。
[中川孝博 2017年9月4日記]