幼児の頃は、童謡やアニソンのアルバムを適宜買い与えられていたように思います。私の記憶が正しければ、生まれて初めて自分から購入をリクエストしたのが、「およげ!たいやきくん/いっぽんでもニンジン」のドーナツ盤でした。
毎日見ていたテレビ番組「ひらけ!ポンキッキ」でかかっていた曲ですね。
ただ私は、A面の「およげ!たいやきくん」は好きではありませんでした。自由を求めて海に飛び込んだたいやきくんが結局は釣り人に食べられてしまうという運命が悲しかったからです。
私のお目当ては、B面の「いっぽんでもニンジン」でした。数え唄なのですが、中毒性があり、何度も繰り返して歌っていました。
ドーナツ盤はダブル・ジャケットの仕様になっているのですが、サブスクでは「およげ!たいやきくん」のほうしか表示されていなくて哀しいです。「いっぽんでもニンジン」のジャケットは ↓ です。
自分の生活記憶と密接に結びついている曲だけに、やはり、サブスクやCDでなく、ドーナツ盤で聴きたいと思っていました。幸い、なかなか状態のよいものをヤフオクでゲットできました。サウンドバーガーで聴いてみましょう。
「およげ!たいやきくん」が最後に食べられたあと、コーダなしにぶつっと曲が終わるのは、今聴いてもなかなかに衝撃的ですね。幼児の頃の私が嫌がったのは必然ですね。
「いっぽんでもニンジン」のほうは、今でもやっぱり聴いて楽しいです。ただ、嫌な記憶も思い出しました。この曲は上述のように数え唄なのですが、数え方が全部異なるんですよね(本、足、艘、粒……)。
「いっぽんでもニンジン にそくでもサンダル~」と歌っているときにはまだゆったりと次の数え方を思い出す余裕があるのですが、曲の最後には「でもニンジン」とか「でもサンダル」の部分が抜けて
いっぽん
にそく
さんそう
よつぶ
ごだい
ろくわ
しちひき
はっとう
きゅうはい
じゅっこ
……と畳みかけるように間髪無く歌わねばなりません。これが当時の私には難しく、何度も繰り返して練習したものです。
さて、幼児の頃はアレンジについて全く意識していなかったと思いますが、今回は、A面とB面が対照的なアレンジになっていることに気付きました。ドラムとベースはどちらも歌唱を邪魔しないシンプルなもの。キーボードも、両曲ともごくごく控えめに伴奏しています。異なるのはメインの楽器です。A面はストリングス(すごくきれいな音で録れています)主体で、哀愁ただようしっとりした雰囲気を作り出しています。それに対しB面はホーン主体。跳ねるファンキーなリズムでにぎやかに盛り上げてくれます。
ちょっと面白いのが、エレキ・ギターですかね。A面では左側に定位していますが、B面では右側に定位しています。両曲を対のものと考えていたことが示唆されますね(考えすぎかもしれませんが)。
ちなみに、作詞者は別です(A面が高田ひろお、B面が前田利博)が、作曲・編曲は同じ方(佐藤寿一)が担当されています。編曲の対照性・対称性は、やはり、意図されたものなのかもしれませんね。
さらに憶測を重ねると、実は歌詞も含めて対照性・対称性がデザインされているのかも。
A面は、自由を求めて行動したが成功しなかったという点で、労働運動や大学紛争を示唆しているような気がしないでもありません。この歌詞をストリングス主体のバンドが奏でており、エレジーまたはレクイエムの雰囲気が醸し出されているような・・・
B面は、特に意味のないシュールな歌詞なわけです。この無意味歌詞を盛り立てるべくホーン主体のバンドがファンキーに跳ねており、浮かれ踊るバブル時代を予見しているような・・・
懐かしい思いとともに、新しい発見もあった、楽しいひとときでした。