はじめに
2025年に発売されたクラシックのアルバムの中でオススメのものを紹介するブログです。
最近は中古で購入したLPばかり聴いているので、新発売のアルバムを10枚挙げられるのか、心配です。
候補 秋山和慶(指揮)、東京交響楽団
ブルックナー:交響曲 第4番
OVCL-00866
*今のところAmazon Musicにはアップされていないようです。

- 秋山氏の指揮者生活60周年を記念して2024年9月21日に録音されたもの。氏は2025年1月26日に亡くなったので、今のところこれが最後の録音のようである。
- 完璧に整ったアンサンブルにより、澄み切った演奏が繰り広げられる。管・弦・打のバランスも完璧。アゴーギクも自然。この演奏を聴いている間は「ブル4はこれさえあればいい」と思え、幸福感に包まれる。
候補 スティーヴン・ハフ(ピアノ)
ショパン: ワルツ全集(2024年新発見の「ワルツ イ短調」付き)
CDA68479
- 既発売のワルツ集に、2024年に発見されたイ短調のワルツを加え、再発したもの。
- ワルツというと、いくつかのワルツをつなげた接続曲とするのが普通ですが、新発見のワルツは24小節からなる1つのワルツのみで、リピートしても1分に満たない短い曲です。しかし Jeffery Kallberg 執筆のライナーノーツによると、これはスケッチでもなく、未完のトルソでもなく、ちょっとしたプレゼント用に作曲した(が結局プレゼントしなかった)完成品である可能性が高いとのこと。冒頭からクロマティックな進行をしたりしてなかなかドラマティックな曲です。
- ハフの演奏は、自然なアゴーギクやルバートを用い、ドラマティックな曲調にふさわしいもの。リピート時には表情を変えており、変化を楽しめます。この曲を紹介するにふさわしい演奏ではないでしょうか。
- この新たに追加された曲のみ、録音が秀逸。残響を抑えめにし、直接音を主体にしつつ、ダイナミック・レンジを豊かにとって、ピアノ演奏を家庭で再現する喜びを味わせてくれます。これに対し、2010年に録音された既出の部分は、残響をたっぷりとり、そのせいかダイナミック・レンジを狭くとったもの。少なくとも我が家では、ヴォリュームをちょっと上げるとすぐ音が飽和し、演奏者が本来表現していたはずのデュナーミクを十分に感じられず、いまいち。この際、ワルツ全曲再録音というのはいかがでしょうか。
- ちなみに、2010年録音も2024年録音も、ピアノはヤマハのCFX。2024年のほうがヤマハらしさをリアルに感じられます。
MV: Chopin: Waltz in A Minor "Morgan Library & Museum MS"
候補 アンタル・ドラティ(指揮)、ロンドン交響楽団
アンタル・ドラティ・イン・ロンドン Vol.1
JAMC-2213
*下記写真には、29枚組のセットからブラームスのハイドン変奏曲が収録された盤をリンクします。
- この中の1枚をたまたまサブスクで聴き、あまりの音の良さと演奏の峻烈さに圧倒されたので、CDセットを買いました。まだ全部は聴けていませんが、ドラティらしい、きびきびと進めつつ時折大胆な解釈を披露する素晴らしい演奏の宝庫ですね。
- マーキュリーの盤に対してはなぜか偏見を抱いていて(きっと思春期の頃における最初の出会いが悪かったのでしょう)、雑味の多いいかにも初期ステレオの音というイメージがありました。それでずっと敬遠してきたのですが、いや、これは素晴らしい。ヒスノイズもゴーストノイズもほぼなく、鮮明な音を味わえます。もちろん現代のリアルなサウンドではありませんが、十分に楽しめる音ですね。原則としてマイクを3本のみ使用しているせいか、定位の良いこと!
- ドラティというと、ハイドン大好き人間の私などはハイドンの交響曲全集と声楽曲シリーズが印象に残っていますが、いろんなレーベルに録音している方なので、録音の全貌はなかなかつかめずにいました。このシリーズ(ロンドンシリーズ2、フィルハーモニア・フンガリカシリーズ、アメリカシリーズ1・2)をこつこつ聴いていけば、50年代から60年代にかけてマーキュリーに録音したものはほぼ網羅できるんでしょうかね? 予算が許せばチャレンジしてみたいです。
候補 キム・ソヒョン(ヴァイオリン)、ホン・ソユ(ピアノ)
グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番、ヴィエニャフスキ:グノーの歌劇「ファウスト」の主題による華麗なる幻想曲、ショーソン:詩曲、クライスラー:ウィーン風小行進曲・シンコペーション・ラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》より第18変奏
JAMC-2213
- 最近K-POPにはまっているのですが、韓国のクラシックにはほとんど触れたことがなかったので、本盤を試しに聴いてみました。日本のNHKに相当する韓国の公共放送局が韓国の若手クラシックアーティストを紹介するシリーズです。2024年の第一弾ということですが、日本盤はやや遅れて2025年5月に発売されました。
- おそらく録音時は16歳で、下にリンクを貼った長時間のインタビューを聴くと年齢相応の少女らしいしゃべり方をしていますが、演奏は実に堂々としたもので、素晴らしいです。第一に、名器グァダニーニによる、低音から高音までむらの無い音色がとても美しいです。第二に、超絶技巧を駆使したヴィエニャフスキとショーソンも収録されていますが、いたずらに技巧誇示の演奏にはなっておらず、なぜその場面においてその技巧を使ったフレーズになっているのかにつき解釈をしっかりして演奏に臨んでいることがうかがわれる、しっかりした演奏になっている気がします。たとえて言うなら、美声を持ちながらもその声を誇示することなく曲のリアリゼーションに奉仕させるエリー・アメリングのような演奏ですかね。第三に、伴奏との息がびったりで、わずかのリズムのずれもないアンサンブル(といっても決して機械的ではありません)は生理的に心地よいです。
- さらに、録音がとても素晴らしいです。前面にヴァイオリンを出し、やや奥にピアノ(スタインウェイ)を置く自然な配置で、ダイナミック・レンジを広くとりつつも、大音量になっても音が飽和せず、音楽そのものに集中できる録音ですね。
- 日本盤にはライナーノーツの翻訳が付いています。このライナーノーツが面白くて、曲の解説にちょっとしたユーモアが散りばめられていて楽しいです。ぜひ一読を。
- というわけで、広く聴いてみてほしい、推しの一枚です。
MV: KBSクラシックFM「2024韓国の若いミュージシャンたち」アルバム特集 - 未来の響き(2)ヴァイオリニストキム・ソヒョン2024.12.12.
候補 ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン)、ルドルフ・バウムガルトナー(指揮、ヴァイオリン)、ルツェルン祝祭弦楽合奏団
J.S. バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1,2番、2つのヴァイオリンのための協奏曲
UCCG-41210
*今のところAmazon Musicにはアップされていないようです。

- 再発盤ですが、Ultimate Hi Quality CDであり、グリーン・カラー・レーベル・コート仕様にもなっているため、音質に期待して購入してみました。期待通り雑味が感じられない滑らかな音で大満足です。
- シュナイダーハン率いるルツェルン祝祭弦楽合奏団の結成後に初めて録音されたものですし、2つのヴァイオリンのための協奏曲では子弟が共演していますし、もっと話題にされてよいディスクだと思います。
- ルツェルン祝祭弦楽合奏団のアンサンブルはきっちり整っており、結成当初から高レベルであったことがよくわかります。
- 1956年および1957年の録音なので、当然、現在の主流であるピリオド楽器による演奏のような、アゴーギクを自在にきかせた伸びやかな演奏ではありませんが、中庸のテンポにより、主として強拍にアクセントを置きつつ、細かなクレッシェンド・デクレッシェンドと、スラーを多用しない明快なアーティキュレーションの合わせ技により、窮屈さをあまり感じさせない演奏になっております。2つのヴァイオリンのための協奏曲も、2人の個性を競うタイプの演奏ではなく、きっちりとフレージングを合わせて形を整えています。聴いていて気持ちがよくなる演奏ですね。
候補 ベアトリーチェ・ラナ (ピアノ) アムステルダム・シンフォニエッタ
J.S. バッハ:ピアノ協奏曲第1,2,3,5番
WPCS-13875
- これは素晴らしい! バッハのチェンバロ協奏曲をピアノで弾く意味がある?と思っている輩を問答無用でねじ伏せる凄演ですね。ピアノはスタインウエイです。
- 完璧なノン・レガート奏法をもって超高速で弾くため、チェンバロと比較したピアノの音色の重さをほとんど感じさせません。そして、高速であるにもかかわらずニュアンスに富んでいます。特に、チェンバロでは絶対に表現できない、クレッシェンドとデクレシェンドの細かな設定(当然、楽譜には記されていないので、すべて奏者の創造)が巧みで、これに慣れると、他の演奏がすべて単調に聴こえてしまうほど。
- 下にMVのリンクを貼りますが、これはダイナミックス・レンジを狭くリミックスしているもので、演奏の良さが十分に伝わっていないのが残念。ぜひ、サブスクかCDかLPを聴いてください。
MV: バッハ:Bach: Keyboard Concerto No.3 in D Major, BWV 1054
候補 マーメン四重奏団
リゲティ: 弦楽四重奏曲第1番「夜の変容」&第2番、バルトーク: 弦楽四重奏曲第4番
BISSA2693
- リゲティの弦楽四重奏曲は、ラ・サール・カルテットの古い盤を持っていて、他の盤は不要と思ってしまうほど愛聴してきました。ところがこの盤、おおいに魅了されてしまいました。今後、ファースト・チョイスはこちらになるかも。
- 詳しい感想は後日。
MV: Bartók - String Quartet No. 4, V. Allegro molto