バッハの管弦楽組曲全集は世に多数出ていますが、私が最初に聴いたのは、カール・ミュンヒンガーが1961年に録音したものです。中学生のときに、友人の父上がカセット・テープにダビングしてくださったものを聴きこみました。
完璧なアンサンブル、磨き抜かれた弦の素敵な音色、中庸を得たテンポ、対位法パートの聴き取りやすさ、堅牢なリズムとやわらかな雰囲気の両立などなど、模範的演奏というにふさわしい極上の演奏でした。
また、私がこれまで聴いた中で、ミュンヒンガーは序曲の冒頭をリピートしない唯一の演奏家です。リピートが大嫌いな私にとって、この演奏は、管弦楽組曲全集を1枚だけ選べと言われたら最有力候補となるものです。
しかしこの演奏はその後、けっこう不幸な運命をたどっているようです。私が知る限り、国内盤のCDは発売されたことがないと思います(2,3番のみは何度も再発されていますが)。輸入盤を探したところ、一応発売されてはいましたが、これが少々難ありなのです。
まず、1989年に発売された↑の輸入盤。1番を除く3曲の序曲がフェード・インで開始されています。つまり、小さな音量で始まり、だんだん大きくなっていくのです。これはゆるされないでしょう!
次に、↑を紹介しましょう。2018年に発売されたセットで、LPを板おこししたものです。やっぱり、1番を除く3曲の序曲がフェード・インで開始されるのです。たいへん残念です。
さらに、↑も紹介しましょう。ミュンヒンガーが指揮したバロック音楽の一部をセットにしたものです。2019年に発売されました。これに1961年録音の管弦楽組曲全集が収録されており、LPで初めて発売された時のジャケットを再現していて素敵ですが……これまで紹介してきた2枚ほどではないにせよ、やっぱり、1番を除く3曲の序曲が微妙にフェード・インで開始されています。
こんな感じで、失望状態が長らく続いておりました。中学生のときにダビングしていただいた、フェード・インのない、あの、まともな音源は、もはや、DECCAには残されていないのでしょうか?
となると、LPに頼るしかないということになりそうです。
まず入手したのが、1976年に発売された廉価盤です。これ、この音ですよ! 中学生の時にダビングしていただいた音源はこれだったんではないですかね? もちろん、フェード・インなどはありません。まろやかで心地よい音です。なかなか良い状態の盤で、満足です。
しばらくはこれで満足していたのですが、だんだん不安で不安で仕方がなくなってきました。「持っているこの1枚が痛んで針飛びなどしたら別の中古を探さなければならないが、その時には市場に残っているのだろうか?」と。
というわけで、「もう何枚か予備を買っておこうか」と断捨離ができない人の典型的な思考に陥ったわけですが、「どうせなら、同じ型番のものでなく、初期盤などを買ってみて、音の違いを楽しんでみようか」と、複数枚買うことの正当化をちょっとばかり試み、ヤフオクで探したところ、そんなに高額でなく、1000円程度で購入できそうだったので、買ってみました。
↑ですね。1962年に発売されたものなので、録音されて間もない時期の盤だと思います。けっこうプチプチノイズが入っていますが、我慢できる範囲内です。
いやあ、鮮明な音ですね!さきほどの廉価版と比較すると、弦のヴィヴラートのリアルさや、ソロの実在感など、際立って優れて聴こえる点が多々あります。第2番ポロネーズのドゥーブルがわかりやすいですね。フルートと単独チェロの二重奏になるのですが、目の前で実際に聴いているかのようなリアルさを味わえます。
ただし、1976年盤の音が悪いとは思いません。あのまろやかなサウンドは、独特の魅力を有しています。それぞれの違いを楽しみたいと思います。
ついでに、同時期に発売されたモノラル盤も入手してみました。当時は同じ音源をモノラルとステレオの両方で発売することがあったようです。ビートルズの1枚目もそうだったような。
ジャケットがほぼ同じで間違い探しクイズのようですが、右上のロゴや、左上のSTEREO、MONOの表記が違いますね。特に音質等で特筆すべきことはありませんが、聴いていてノスタルジックな想いにかられます(1962年当時、私はまだ生まれていませんが)。
ちなみに、モノラル盤とステレオ版に付されている解説は小林利之氏によるもので、内容は同じです。興味深いのは、1976年の廉価版の解説も小林利之氏の手になるものなのですが、1962年当時の解説をベースにしつつも、表現等を修正しております。素人の私からみても、1976年盤のほうが、明らかに、よりわかりやすく、より読みやすくなっています。かつて書いた文章をただ転用するのではなく、より良いものにすべく修正を重ねたのでしょうか。氏の姿勢に感動しました。
これだけ持っておけば、当分は安心できるでしょう。気が向けば、海外の初期盤にも目を向けてみましようか。でも段違いに高額になるから、躊躇するかも。





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